アメリカPh.D.生活雑記(1st Semester)

本記事は湧源クラブAdvent Calender 2019に参加しています。

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アメリカの大学院におけるPh.D.生活

アメリカの大学院の特色は本当に大学によって千差万別なので、自分の通う大学によって十人十色、必ずしも全く同じような生活になるわけではないということだけを留意してください。そのうえで海外大学院への留学に興味のある方にとってある程度有益な情報を共有できればと思い本ブログを開設しました。

また、そのうち研究関連の雑記とかもかければなと思います(開設時点ではどの程度開示してもいいのか不明なのでしばらくは技術の話はアップしないと思います)。

今回は大学院での生活を始めてからちょうど1学期経ったので時系列順に大学関連の話でもしてみようかと思います。もちろん大学生活とは関係ないアメリカでの生活についてもちょろっと触れます(最初のほうはがっつり触れていきますが)。

 

入学時の手続き等

私の通う大学院は通常のアメリカの大学院と比べて比較的早い時期に授業が始まります。そのため私は8月の中旬に渡米し、早期に入寮しました(といっても前の入居人が大挙していなかったり部屋がごみ部屋と化していたりした関係でしばらくごたごたしていましたが)。

アメリカについて真っ先に行うべきこととして

  1. 携帯電話番号契約
  2. 銀行口座開設

の二つが挙げられます。

私も例にもれずこの二つをとっとと行いました。その際日本から持参したiPhone6Sはsimロックが解除できない関係で新しいスマホを買う必要が出てきたためiPhone10を購入しました。

 さて、このスマホですが、購入した3日後に非常に運の悪いことにひったくられてしまいました。幸いけがはなかったのですが、心理的には非常につらかったです。

犯人の手口としては、二人組で後ろをつけてきて交差点で信号待ちをしている間に「今何時?」と聞いてきてスマホで確認しようと取り出したタイミングでひょいっととって爆速で逃げる、というものでした。アメリカでは誰かにつけられていないか確認をし、スマホは取り出さず常にポケットかカバンに隠さないといけないという教訓を得ました。またこれ以降携帯電話非保持の状態で10月まで過ごすこととなります(保険金受取の関係で)。

 

暗い話は置いておいて、入学直後は様々な手続きが待ち構えています。

寮に住むことになったのでポストキーを受け取ったり、大学の様々なネットサービスに登録したり、授業の履修登録をしたり、といったことです。

また、私は運の悪いことにTA(Teaching Assistant)にアサインされていたため(なぜ運が悪いかというと、私の所属するラボでは通常RA(Research Assistant)にアサインされるため)業務内容の確認、stipend受取に関する書類作業、SSN (Social Security Number)の発行など様々なことをする必要がありました。

さて、このSSNなのですが、日本とは大違いでアメリカの市役所というのは仕事をさぼるのが仕事なのか知らないのですが私の時は申請を行ってから実際に発行されるまでに2か月以上かかってしまいました(大分レアケースらしく手続きの手伝いをしてくれた大学の職員の方は非常に驚かれていましたが)。そのためStipendも2か月間支払われることなく危うく飢えかけましたが。

いろいろなこと(SSN発行、保険金受取、盗難被害に関する警察の調書等)がペンディングとなり非常に精神的に疲れましたがそうこうするうちに新学期の始まり。授業は3つ、英語のWritingを一つ(これはTOEFLのWritingのスコアが悪かったためmandatoryでした)と来年受けるQualのための要求科目2つを受講しました。

授業の内容は基本的には学部でやったことの焼き直し(学部が非常にレベルが高かったのと現在私の通う大学院のレベルがあまり高くないため焼き直しになってしまったのだと思います)といった感じで、とくには目新しいことはありませんでした。しかし、ここで基本的な数学(特に線形代数)の復習ができたのはよかったです。

今学期受講した授業は運よく課題はあまりなく(英語の授業はそれなりにがっつり課題あったのですが割愛します)中間試験と期末試験でほぼ成績が決まるみたいです。試験は一応数々の受験戦争を勝ち抜いてきた身としては信じられないくらいざるなのでいくらでもカンニングできてしまうなあという感想を抱いたくらいで内容は大差なかったです。

授業以外には主にTAの業務と研究をすることになります。

 

TAの業務

日本の大学でTAの業務というと、私の中では演習の授業で講師の先生のサポートを行い学生からの質問に答えたり、試験の時に答案用紙の配布・回収を行ったり、学生のレポートの採点を行うような業務を想像します。いずれの場合も各学期でせいぜい数回程度、給料も数千~数万円程度のものだと思います。

アメリカでのTAは主に3パターンあります。

まずレポートや試験の採点。これは日本と同じようなものだと思います。大きな違いは、レポートを提出する学生の数が100人単位であったり、毎週すさまじいページ数(10ページとか)のレポートを学生が提出してきたり、すこしでも変な減点をすると学生からなんで原点になったのかいちいちクレームが入るのできちんと対応をしなければならないことでしょうか。

次に授業を行うこと。残念ながら私の学科ではこの形態のTAを行っている人を見たことがないので詳しくは知らないのですが、大学によっては学生が先生と相談しながら「教科書のここからここまでを授業で教えて」といった塩梅に授業のカリキュラムに沿って講師をすることもあるみたいです。主に理学部に多い傾向にあるみたいです。

最後に実験を行うこと。私はこれをすることになりました。

実験をするといってもぴんと来ない方もいらっしゃると思うので私の行った業務内容について説明していきたいと思います。

私の担当した授業はMechanical Labという名前で、主にSolid Mechanicsに関連する実験をおこないました(あと数回だけControlも)。

毎週行うこととしては

  1. 大学のTechnicianに翌週の実験について説明を受け、実演してもらう
  2. Technicianの指導を受けながら実験の手順や概要についてすべて自分一人で実演及び説明できるようにする
  3. 実験の説明などを簡単にホワイトボードにまとめたりメールで事前に連絡しておく
  4. 実際の授業で説明および実演を行い、学生にも実験を自分たちでやらせてそれをサポートする
  5. 実験の最中によくわからなかったこと(手順に限らず理論的な背景も)を聞かれたら説明してあげる
  6. 学生の出欠を取り先生に報告

といった感じです。

4つ目と5つ目の内容だけ、毎日2.5h程度の授業時間内に学生たちに指導していくこととなります。つまり、毎週計12.5h + 準備時間で大体17時間前後がっつり仕事をすることになります。実験なのであまりどっかり座っていられないのもつらいところでしたが、一番大変だったのは毎週金曜日になると一応サポートをしてくれているTechnicianの方が休勤のため完全に一人で全て取り纏めないといけないことでした。それと、地味につらかったのは出欠の管理です。学生は基本的に自分本位なのでたまに出欠をごまかそうとしてきます。殺意の波動に目覚めないよう丁寧に対処しなければならないのが大変でした。それと、私のバックグラウンドはDynamicsやControlといったものなのですが、バックグラウンドが違うのにもかかわらずすべて英語で説明しなければならないというのもなかなか大変でした。

このように大変なTAの業務ですが、リターンも当然大きいです。毎学期授業料で$11,000程度かかるのですが(私の通う大学の授業料は段違いに安いのでこの程度ですが)これを全額免除にしてもらえ、かつStipendとして$7500(手取りは$6000程度)もらえることとなります。

 

研究

研究室に配属されてまず指導教官の先生に言われたのは「Udacityの移動ロボットのコース取れ」でした。まずは基礎的な知識をきちんと押さえてから研究に取り掛かれという話ですね。それが終わった後は今年卒業した先輩のD論を読み理解するフェーズが始まりました。それが完了した後、ボスからラボとして取り組んでいる研究トピックの概要とどのパートが完了しているのか、していないのか、といったリストが渡されました。そのうえで、まずは一番簡単なこのトピックから取り組んでみよう、と指示され取り組んでいるのが現状です。

もちろんこのほかにも先輩方の研究の手伝いをしたり、コーディングの手伝いをしたりしているのですが現状は取り組み始めたばかりなのでその話はまた今度にでも回したいと思います。

さて、この研究についてなのですが私は当初思ったよりもかなり束縛が強かったためとても驚きました。これはもちろん日本の大学でもそう大きくは変わらないのだと思うのですが、ファンドの関係からPh.D.の学生はそのラボにおける研究プロジェクトの労働力として期待されるのです。何を当たり前のことを、と思うかもしれませんが、私はその束縛の度合いが「大きな目標が決まっているが過程は基本的に学生のほうで決定できる」ものだと思っていました。実際には過程も含めてある程度はボスの要求に従って仕事をしていく必要があったわけです。幸いにして私は支持された内容にそこまで不安はなく、またすべてマイルストーンが指示されるわけではなくやはり部分部分は自分の裁量でどうにかできるため文句はないのですが。これは大学によってかなり違うみたいです。知人は逆に指導教官から一切指示されないためつらい、ということを言っていましたし、逆にすべて指示される方もいらっしゃるようです。この辺りは事前に進学先の研究室についてきちんと調べていないと陥りやすい事態のように思えます(私は運がよかったと思います)。

 

さて、ひとまず最初の学期の雑記はここらへんで筆をおきたいと思います。

来学期はRAにアサインされると先生に約束されているのでもうTAの業務で苦しむことはないと思うのですが、基本的には生活は今学期と様変わりすることはないと思います。学期の途中に締め切りのある学会論文を提出したいのでこの冬休みの間にどれだけ進捗を稼げるかが重要になってくるのでまた落ち着いたらRAだけの生活についても記事を書きたいと思います。